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 やはり、追撃戦のときだった。定明と黒田が、追撃隊の後を追っているうちに日没になり、はぐれてしまった。さぐりさぐりして、深夜、どうやら、旅団本部へ転がり込んだ。ほとんど、飲まず食わずだから、腹はペコペコで、定明は、もう虫の息である。
 松永正敏旅団長は二人を見て、「さぞ、疲れただろう。いま直ぐご馳走するよ」と、まず、ブランデーを飲ませてくれた。やがて、炊きたての飯に、鶏肉野菜の甘煮がどんと出された。定明、遠慮なくハシをとったが、どうしたことか、飯も肉ものどを通らない。通るのはブランデーばかりである。食べたいのに食べられないのは餓鬼道の苦しみだが、黒田はそれを見て、「君、ご馳走を食べないのか。そんなら、ぼくが頂戴しよう」と、ペロリと食べてしまった。
 そのあと、大勢の将校がたむろしている所へ下がって、この話をすると、一人の将校が、「ああ、それは腹が減り過ぎているためだ。そんな時は、熱い飯ではなく、飯に水をかけてかき込むのが一番だ。試してごらん」と、冷や飯に水、キュウリを差し出された。教えられたとおり、生キュウリをかじりかじり、水掛け飯をやると、なるほど、のどを通る。これを知らなかったら、翌日の戦場に立つはおるか、担架に乗せられ、後送されたに違いないと、定明は蘇生の思いであった。